シプレ系ってどんな香り?

日々増える香りの世界。
一体このジャンルどんなやつ?という疑問が出ることもしばしば。
自分でも普段店頭に立っていてピンとこないな…と思うことも。

そんな悩みについて自分なりに調べた結果をご紹介しようと思います!

個人的に二大ピンとこないジャンルのシプレとフゼアのうち、前回はフゼアを特集しました。 ということで今回はシプレ系の香り特集です!

前回はコチラ 

シプレ系って一体何?

シプレ系もまたレザーとかシトラスとかフローラルみたいにわかりやすい言葉じゃなくて何を想像したらいいか全然ピンときませんよね。
シプレ系の語源は地中海に浮かぶ島、キプロス島のフランス語読みCypre(シプレ)からきています。
これもまた自然界にあるモノではなく、香水が発展していく上で生まれた大ヒット香水の型をなぞった場合に使われるジャンルの名前でした。

それは1917年にCoty(コティ)のCypre(シプレ)というもの。
元々は17世紀頃に誕生したLubinというメゾンがロシアの皇帝アレキサンドル1世の為だけに1821年に仕立てたEau de Cypreという香りが原型となっていたそうですが、それは化粧水のような役割でビューティーアイテムというよりもコスメアイテムとして重宝されていたことからちゃんとしたシプレの成立には至っていなかったよう。

その後18世紀末には、フランスの調香師によって様々なEau de Cypreの模倣がされましたが、全て軽やかで甘いパウダリーフローラルにラブダナムを加えた香りだったようです。
このフローラルの中に忍ばせたラブダナムがシプレの前身、18世紀のEau De Cypreの象徴的な香りとして使われていたそう。
そこから時が流れ、コティが挑戦して生まれたシプレの香りが評判がよくシプレ系の香りとして存在するに至ります。

そんなシプレという香りは神話でヴィーナスが誕生した場所としても有名な地中海に浮かぶ島、キプロス島をテーマにその島を産地とする様々な植物を使用した香りでした。
現在は廃盤となってしまいましたが、その香りが与えたインパクトは大きくジャンルとして確立されました。
現在では世界一の香水のポータルサイト、Fragranticaでは2017年時点で1,800を超える香りが登録されている*とも言われています。
*Fragrantica, Chypres, Part 1: History and Chemistryより。

ではその香りはどんな構成だったのか当時の香りを知るFragranticaから引用してみます。

Coty(コティ)|シプレ

トップ:ベルガモット、アフリカ産オレンジフラワー、アマルフィ産レモン、アマルフィ産オレンジ
ミドル:ジャスミン、アイリス、ローズ、カーネーション、イランイラン、ライラック
ベース:オークモス、パチョリ、インセンス、シベット、ムスク、スティラックス

トップからラストにかけて、シトラス、フローラル、ウッディ、アニマリックと香りの全てが流れ込んでくるようです。
ですが、徐々にその香りも洗練され、シプレを表すのはトップのシトラス、ミドルはフローラル、ベースはオークモスとパチョリ、ムスクがキーとして扱われるようになったみたいです。
それでは、具体的にどんな香りがあるのかノーズショップのアイテムを例にみていきたいと思います。

シプレ系って具体的にどんなアイテムがあるの?

シプレは最近のヒット香水が入っていることもよくあるジャンルです。
幅が広いので賛否両論ありますが、代表的なものではゲランの「ミツコ」やカルヴァンクラインの「CK1」、Diorの一番最初のバージョンの「ミスディオール」(一部店舗のみのエキストレ ドゥ パルファン濃度)のものが挙げられます。
この例を見てピンとくる方も多いと思いますが、歴史的には女性向けの香りのテーマとして扱われることが多い香りです。

しかし、女性だけのジャンルかと言われたらそうでもなく、先ほど挙げたカルヴァンクラインのCK1はユニセックスの香水として発売されたように、シプレは性別問わず使っていただけるジャンルです。
それではノーズショップで扱いのある香りの中では、どんなものがあるのでしょうか。

ZOOLOGIST(ズーロジスト)|ナイチンゲール(ウグイス)

NOTE:
トップ|ベルガモット、レモン、サフラン
ボディ|梅の花(ジャパニーズプラムブロッサム)、レッドローズ、バイオレット
ベース|ウード、パチョリ、モス、サンダルウッド、フランキンセンス、ホワイトムスク、アンバーグリス

 

動物を着想源に香りを作るZOOLOGISTのナイチンゲール。
平安時代の日本の和歌から着想を得ており、日本人の稲葉智夫さんという香水のポータルサイトProficeを運営されている日本を代表するフレグランスジャーナリストでありながら調香師の方が作られた香りです。
そのため、ナイチンゲールは西洋の鳥ですが、実際の着想元はウグイス。
彼は平安時代の歌を着想源としたので、クラシカルなシプレを作ることにしたそう。
自分はこのクラシカルさに先ほど有名なシプレの香りで挙げたゲランの『ミツコ』を思い出しました。
どちらも日本の女性から影響を受けたからでしょうか。レモンなどのシトラスがフワッと始まりますが、次第にローズや梅の花にパチョリが重なり優美な雰囲気です。
『ミツコ』と比べると少し軽やかな印象を受けるモダンクラシカルなシプレの香りです。

NICOLAI(ニコライ)|オダリスク

NOTE:
トップ|マンダリン、ベルガモット、ガルバナム
ボディ|スズラン、ジャスミン、アイリス
ベース|オークモス、パチョリ、ムスク

 

オダリスクもニューヨークのように世界ではニコライを代表する作品の1つ。
ニューヨークとほぼ同時期の1989年にリリースされた作品です。
ちなみに、ニコライの作品のオードパルファムの全てはある時アンタンスという最初の構成を少し変更したバージョンに変更されていますが、この香りと日本では扱いのないVanille Tonkaの2つだけがオードパルファムのまま残り続けています。
なので、IFRAという香料業界の協会によるアレルギーの可能性に配慮した規制の影響を受けたであろう軽微な変更以外は当時の構成のままの香りの一つ。

トップはマンダリンなどのシトラスと、草のような香りの樹脂香料であるガルバナムの青さの少し渋めな淑やかな香りから始まります。
しかし徐々にスズランなどのお花の華美な雰囲気から最後には少ししっとりとしたオークモスとパチョリのウッディなニュアンスへと変わっていきます。

着想源がオスマントルコの女性の奴隷という18-19世紀に絵画で流行した画題ですが、絵画で描かれる気怠げな印象というよりも少し清楚な香りに感じます。

ニューヨークのようにこの香りは世界最強の鼻を持つ学者、ルカトゥリン氏が高く評価した香りでもあります。
2010年の著書、『世界香水ガイド2 1885』では

  • 古典的なシプレのアコードの内側から大理石の輝きが滲み出てくるまで、まるで調香師が余分な素材を巧みにそぎ落としたかのようだ。
    他にない、もっと評価されてしかるべき作品である。
    男性がつけてもたいへん良い。
    『世界香水ガイド2 1885』より。(芳山むつみ,Luca Turin and Tania Sanchez, 2010, 原書房.)

とコメントを残し、最高得点の5つ星を獲得しています。

男性にもオススメなクラシカルなシプレの香りです。

UNUM(ウナム)|クアンド ラピータ イン エスタジ(恍惚の彼方へ)

NOTE:
トップ|インセンス、シダーウッド、スズラン
ボディ|クローブ、ピーチの核
ベース|インセンスレジン、ベチバー、トンカマメ、モミの香油、ラブダナム、パチョリ、バニラ

 

マリアカラスが歌い上げたオペラ『ランメルモールのルチア』の狂乱の場"QUANDO RAPITO IN ESTASI"という曲から着想を受けたこちらの香りも実はシプレの香りです。
全体的にラブダナムやパチョリ、ベチバー、インセンスの香りがどっしりと感じますが、トップから不思議なスズランやピーチが馴染み、彼女のソプラノのように香ります。
不穏な狂乱の場面でQUANDO RAPITO IN ESTASIは少し暗かった歌の連続の中で、愛する人に愛を誓う時には自分の涙も喜びに変わるという真の愛について歌い上げます。
この香りはそんなこれまでの不穏さと甘美な感触を併せ持った不思議な香りです。

今回はちょっと難しいシプレについてをご紹介しました。
抑えておきたいポイントは「トップはシトラス、ミドルはフローラル、ベースはウッディ」という型。
簡単にすると、
シトラス→フローラル(ラベンダーかゼラニウム)→ウッディ(オークモスあるいはパチョリ)はフゼア。
シトラス→フローラル(ジャスミン、イランイラン、ローズ)→ウッディ(オークモスあるいはパチョリ)
がシプレという形が覚えやすいかもしれません。


シプレは優美な雰囲気にあわせたい香りでした。 みなさんもしっとりと奥深いシプレの世界を探検してみては?

参考文献
芳山むつみ,Luca Turin and Tania Sanchez, 2010, 『世界香水ガイド2 1885』原書房. Profice ナイチンゲールレビュー (2020年12月3日取得 http://www.profice.jp/brand/z/zoologist-perfumes/nightingale.html)
Matvey Yudov, Sergey Borisov,2017,"Chypres, Part 1: History and Chemistry", Fragrantica, (Retrieved December 5 2020, https://www.fragrantica.com/news/Chypres-Part-1-History-and-Chemistry-9756.html)