LIVE AND LET DIE

By Béatrice Boisserie

優しさから成熟の年へ ジュニアからシニアへの香水マーケティング

ベアトリス・ボワスリー 

乳幼児と高齢者。人生の始まりと終わりという両極端で向かい合うこの両者は、それぞれが別 のニッチ市場を形成している。乳幼児向けのものと高齢者向けのものとでは推奨される香りの系統や表現方法が異なるのはもちろんのこと、さらに時代や地域といった要素もその変数となって くる。

フランス人調香師のロルフ・ガスパリアンは、香料会社マンのメキシコ支社に赴任したときのことを思い出す。1989年、ちょうど彼の提案した赤ちゃん用香水のフォーミュラが依頼元から再度差し戻しを受けたところだった。彼としては、身ぎれいな赤ん坊たちの香りはこうあるべき、ということなら知り尽くしていると、そう思いこんでいた。そんな彼を翌日マンの同僚がメキシコ市内のスーパーへと連れ出し、棚に陳列されていたジョンソン&ジョンソンのタルク・ベビーパウダーの香りをかがせた。そう、まさに「その香り」だった。アメリカ大陸に存在するすべての赤ん坊、そしておそらくは地球上に存在する90%の赤ん坊たちのお尻を包みこんでいる、あの香り(★)。それはエチルバニリンのしっかりと香る、パウダリー・オリエンタル・フローラルのアコードだった。何ということだ! ロルフ・ガスパリアンが先日提出していたのは柑橘系のアコードだった。その香りがヨーロッパでは子どもらしい丸みを連想させるものだったから彼はそうしたわけだが、ここメキシコでは何と、シトラス系の香りは洗剤の香りを思い起こさせるものだったのだ。そのことに彼は大きな衝撃を受けた。

したがって悪女(ファム・ファタール)のイメージや男らしさといったものと同じように、この無垢な子どもの香りというものもまた決して不変のカテゴリーに属するものではなく、それらはあくまでも文化的に構造化されたものであるということが分かるだろう。「赤ちゃんからはどのような香りがするべきか? それを定義することは、清潔な洗濯物からどのような香りがするべきか、ということを定義することと同じくらい困難です」とロルフ・ガスパリアン。「きっとその差異の分布図はそれこそ世界地図そのものと一致するのでしょう」。こと子ども向けの香りに関してはヨーロッパ文化は一貫して他地域とは異なる道をたどってきたわけだが、わずかにイタリアだけはこの例に漏れ、例えば「ボロタルコ」(イタリアの子ども用ボディパウダーの定番。バニラ、アイリス、ムスク、アンバー、といったノートが特徴)からは、先に見たような「パウダリー・オリエンタル」の系譜に範を得ていることが確認される。

ヨーロッパにおける伝統として、子ども用の香水はオーデコロンに近いものとして作られることが常だった。ここで確認しておくとすれば「オーデコロンとは香水の黎明期に誕生したフレグランスの仲間で、明るい柑橘系がその香り的特徴の大部分を占めます」。そう教えてくれるのはこちらもマンの調香師であるマチュー・ナルダンだ。具体的には、スペインのネヌコから出ている子ども用コロンのネロリの香りや、ミグザ・ベベのボディソープから香るハーバルなフレッシュさなどがその例として挙げられよう。1950年の発売以来フランスの定番であり続けているミュステラ・ボディローションの、あのハチミツっぽい甘さを持ったスイカズラの香りも忘れずにつけ加えておきたい。「この商品は何世代にもわたり愛されているがゆえ、その香りはフランス人の集合的イメージのなかで赤ちゃんらしさの代名詞として結びつけられています」とマチュー・ナルダンは語る。これら定番とされる商品の香りは、誕生から何十年とたった今でも市場に影響を与え続けている。

「赤ちゃんからはどのような香りがするべきか? それを定義することは、清潔な洗濯物からどのような香りがするべきか、ということを定義することと同じくらい困難です」

赤い果実、青い果実、酸っぱさ

では赤ん坊が成長し大きくなった後も、その子どもは赤ん坊だったときと同じ香りを変わることなく浴び続けるのだろうか? さすがにそうはいくまい。しかし今日では赤ちゃん用だけではなく子ども用の香りも独立したカテゴリーをなしている。「ここ最近、斬新で画期的な子ども向け商品を作るスタートアップがじょじょに増え始めています」とシムライズのビューティケア・エバリュエーター(商品の開発プランニングを行う役職。商品の開発段階においてニーズに応えるものとなっているかを消費者目線で評価し判断する。企業によっては顧客と開発者の橋渡しも行う)を務めるアリーヌ・スプロテンは語る。例えば大人たちがするようにデオドラントをつけてみたり(フレッシュ・キッズの子ども用デオドラントならそれが可能だろう)、カラフルな泡風呂のなかでだらだらしてみたり(ネイルマティック・キッズから出ている、お湯のなかでパチパチと弾けるバスソルトやベリーの香りのバスボムなどがうってつけだ)、赤ん坊は卒業しても、子どもたちの遊びたい盛りはまだまだ尽きるところを知らないらしい。

ウアットは4歳から6歳向けのモイスチャークリームを発売した(「マ・ポーション・ア・ビズー」)。この商品にはラズベリーシードオイルが含まれているが、実際にこの年ごろの子どもにはベリー系の香りや、包みこむような安心感と温かみのある香りを好む傾向があるという。これがもう少し成長し6歳から8歳になると、例えばパイナップルの酸味や「弾けるような柑橘系の香り」(オレンジピールやミカンの皮など)といったものに好みを示すようになります、とアリーヌ・スプロテンが補足する。さらに9歳から12歳になると、青々しい果実のようなみずみずしい溌剌さや、同じ柑橘系でもよりさっぱりとした木質系寄りの香りを身につけたがるのだという。

そうした事情も手伝って、今日の調香師たちには従来の既定路線である柑橘系の伝統からある程度逸脱する自由が与えられている。ベルガモットやネロリといった定番を離れ、かといってフルーツだけに頼ることなく、より母性的な丸みのある、ほのかにムスクのニュアンスを持った香りが目下模索されている。例えばマンのマチルド・ビジャウイは最近、ファッションブランドのザディーグ&ヴォルテールからの依頼で、母と子がいっしょになって使える香水シリーズを完成させたところだった。母親用の「ディス・イズ・アス!」は懐かしさを感じさせる甘いココナッツの香りをテーマにしており、そのペアとなる「ディス・イズ・ミー!」は6歳以上の子ども向けで、フローラルかつパウダリーなノートに、そこへ「プチ・マルセイユ」の石けんをほうふつとさせるコスメティックな香りを加えたものだった。この親と子の嗅覚的つながりを表現するにあたってマチルド・ビジャウイがインスピレーションを受けたのが、ふわっとしていてなめらかな、あのカシミヤの質感であった。「カシミヤはザディグ&ヴォルテールのファッションラインにも頻繁に使われており、まさに同ブランドのDNAとも言える素材です」。そこからさらにイメージを膨らませたマチルド・ビジャウイが思い描いたのは「カシミヤ・ウッド」の香りであった。バニラ、ミルク、ムスク、そしてほのかにフルーティなニュアンスも感じられるこの香りは、毛糸玉のような柔らかな印象を与える効果を生み出した。この香りを共通のノートとして含ませることで、毛糸玉から伸びた糸がさながらアリアドネの糸のようにふたつの「ディス・イズ」を結びつける光景をマチルド・ビジャウイは思い描いたのであった。ジュニア用の「ディス・イズ」に関しては、「お風呂上がりの子どもが鼻に泡をつけたまま出てくる」という、ちょっとおっちょこちょいな物語をイメージとしたとビジャウイは語る。結果としてその香水は「清潔さ」を感じさせる一方で、「独創的でユニークなアイデンティティ」を持った香水に仕上がったのであった。このジュニア用香水の濃度が大人用のそれと比べ3分の1の抑えられているということも考慮すれば、その独創性の高さはなおのこと際立つというものだ(併録のコラム「香水は子どもには濃すぎる?」も参照されたい)。

子ども時代というある種の理想を美化するためには、この「清潔な」香りというのはまさにうってつけだ。「清潔な、とは言ってももちろん洗剤のような匂いではありません! それはもっと優しさというか、心地よさや穏やかさといったものと結びつけられる清潔さなのです」。そうことわったうえでマチュー・ナルダンは次のように続ける。「例えばその清潔さを、グリーンノートで表現することができるでしょう。サンダルウッドのほのかに香る、明るめのウッドノートを使うというのも良いアイデアかもしれません。ですがローズマリーやタイムといったスパイス系の香りは避けられるべきでしょう。清潔さというよりかははるかに男らしさを思い起こさせるノートだからです。子どもたちにとっては力強さや豪華さといったものは求める対象ではありません。彼らが欲するのは例えば人肌の匂いのような、もっと繊細でナチュラルな何かなのです」。ゆえに毛皮やシプレといったものも子ども向けフレグランスでは避けられる傾向にある。

一方で、キャンディやマドレーヌといったお菓子の甘さに代表される、中毒性のある香りとしても名高いグルマンノートに取り組むことに対しては調香師たちも意欲的だ。ロルフ・ガスパリアンはグミキャンディーで有名なあのハリボーとの共同で、ドープのシャワージェル「子ども時代の甘い思い出」シリーズを制作した。彼がそのシリーズを世に出してからもう何年もたつが、いまだそのシリーズは子ども用シャワージェルの定番として売れ続けている。「きっと大人でも使っている人はいるんじゃないかなあ、と思っていますがね」とそう彼は冗談まじりに語る。「ですがストレスの多い大変な時期にこそ、人はついつい甘い香りに頼りたくなってしまうものですので……」とも。 

終わらない若者時代

確かに、その言葉にはじゅうぶんにうなずけるものがある。子ども時代とともにあった匂いは大人になってからもなおその記憶のなかにとどまり続けるからだ。好きなものや嫌いなものはその後の人生の経験や新たな出会いによって目まぐるしく変わっていくものであるわけだが、そうした変化のなかでも人の好き嫌い、趣味趣向といったものは子ども時代に好んでいたその匂いによっても常に影響を受け続けるものなのであろう。だがその影響も決して永遠に続くわけではない。ミュステラを使っていた元赤ん坊たちが歳を取ってシニアになるとき、長きにわたり愛されてきた子ども時代の香りも、ついにその役目を終えるのである。そしてシニアになった彼らは今、香水業界にとっての最大のターゲット層となっている。「現在、世界人口の9分の1が60歳以上となっています。そして2050年にはその割合は5分の1に達すると言われています」とシムライズのアリーヌ・スプロテンはコメントする。マーケティングはこれを好機とばかりに動き出す。彼らが画策するのは、香りを通じて永遠の若さを提供することだ。洗顔料やボディローション、ハンドケア用品やフットケア用品といった、年齢を重ねた肌用のコスメ商品はすでに広く普及しているし今後ますます拡大していく市場であろう。ではこのような高級スキンケアラインの流行に乗じて、「シニア用フレグランス」なるジャンルの誕生も期待することはできるのだろうか? これに関してはロルフ・ガスパリアンは決して手放しでは肯定していない。「例えばですが『レール・デュ・タン』にヒントを得た香りなどは、ありかもしれません。それによって古き良き時代を思い出してもらえるような。それか、シャネル『No.5』に着想を得た、おばあちゃんを思い出させる香りなんていうのもいいかもしれない。それでも……しかし……」と、いまいち歯切れが悪い。それもそのはずで、そもそも彼らは自分たちが「シニア」とカテゴリー分けされることなど始めから望んではいないのだ。そうです、まさにその点こそがシニア層のパラドックスなのです、とアリーヌ・スプロテンは語気を強める。「彼らはむしろ『若者向けの香水』を好んでいるのです。例えば『ジャドール』の系譜に連なるフレッシュでフローラルな香りがそれにあたるでしょう。またコスメティックなノートも好まれます。というのも彼らは、自分が過剰に香水をつけている、という印象を与えることを好みません。それゆえ化粧品のような自然な清潔さを演出しつつ過剰に香ることのない(例えば、トップノート・グリーン、ミドルノートには透明感のあるもの、ベースノート・ムスク、といったような)より控えめなノートが好まれるのです」。つまりそのような意味ではシニア向けの香水も若者向けのそれもそう大きくは変わらないわけだが、しかしその香水が乗る肌の匂いに関しては、決して時間の洗礼を免れることはできない。肌のしわや白髪の出現とともに、肌の匂いもまた代謝機能が減退していることをしきりに訴えかけてくる。年齢とともに、人間の体は脂肪酸を多く生成するようになり、反対に抗酸化物質の生成は次第に少なくなっていく。さらには2012年にアメリカとスウェーデンの科学チームがオンラインジャーナルの『プロス・ワン』に発表した研究によって、人の肌の匂いをチェックするだけでその年齢層を特定することが可能であるということが明らかにされた。その特定の手がかりは、「2-ノネナール」という分子の存在にあるという。これはもともと汗のなかに含まれている匂い分子のひとつであるが、その分泌量は30歳を超えるとじょじょに増加していくというのである。そんなにも若いうちからすでに老化のきざしが始まっていようとは! この現象は初期の人類における生殖本能に由来するとされる。古来より人間は肌の匂い、そしてその肌に浮かぶ汗の匂いをかぎ分けることにより、繁殖のパートナーに適した(すなわちより若い)相手を選別していたのだ。

デリケートな話題

このシニア世代の匂いというのは実際にはどのような匂いを指すのだろうか。ネット上には「青臭く脂っぽい」「何かが酸化したような」「酸っぱくてすえた匂い」といった言葉が散見される。なかには「アイリスやキュウリを思い起こさせる」といったポジティブな意見もあれば、反対に「腐ったビールとそば粉の匂い」といった辛辣なものも見受けられる。こうしたシニア特有の体臭を改善しその原因を取り除くことを目指した製品が近年開発されつつある。「ここで言われているような、いわゆる悪臭を抑える効果を謳う製品はもともとは(洗濯や掃除用洗剤などの)機能性製品として開発されておりました」と、そう語り始めるのはフィルメニッヒでマーケティングディレクターを務めるチャンドラー・リムだ。北アジア地域を担当し、特に中国と日本の事情に精通している。「そこへシャンプーやボディソープといった製品にもその効果を持つものが登場し始めたのはここ数年と、実は比較的最近の話になります」。いつまでも清潔で爽やかな状態でいられること。まさにそれこそが、こうした新商品が消費者たちに約束した効果であった。アメリカではミライ・クリニカルという日本発の化粧品メーカーが、非難の的となる匂いを「取り除くことができる」と請け合う製品をハンドウォッシュ、ウェットティッシュ、シャンプー、デオドラントなどといった複数の形態で展開した。ポイントとなるのは日本のフルーツである柿の抽出物が配合されている点であった。その柿に含まれるタンニンの働きによって悪臭の原因となっている分子が分解されるという、そのようなナチュラルな消臭効果が期待できるとされた。

それにしても日本という国では、悪臭を放つものは社会的な悪であるとされる風潮がよほど強いと見える。日本語で「高齢者特有の匂い」を意味する言葉として「カレイシュウ」という固有の語を持っていることからもそのことがうかがえよう。皮脂が詰まり汗が過剰に分泌されることで生じるこの匂いに対しあからさまな非難のまなざしを向ける雰囲気とは裏腹に、日本ではまだこの問題を公に語ることはタブー視されており、オープンに議論する環境は整っていない。それほどまでにデリケートな議題であるということだ。だがそうした日本の状況にも、資生堂が高齢者向けのスキンケア製品とヘアケア製品のシリーズを開発し始めたことで今後少しは変化が見られるかもしれない。これらの製品には脂肪酸の酸化を抑制し抗酸化物質の生成を促進する香料が含まれ、その働きによって「2-ノネナール」の匂いを緩和する効果があると見こまれている。脱臭効果のあるシャツやデオドラントスーツの開発もメーカー各社で進められているが、今のところは男性用のみにとどまっているようだ。2006年にはまた別の日本メーカーが体の内側から体臭を消すことを目的としたチューインガムを発売した。ガムを噛むことで、全身の皮膚の毛穴から良い香りを漂わせることができるという。ネーミングセンスがたいへんユニークだ。「オトコ・カオル」、日本語で「良い匂いのする男性」を意味する言葉である。

とはいえ、その匂いもどうやら悪いところばかりではないらしい。というのも先ほど挙げた(体臭によって年齢を判別できるとした)2012年の研究においては、高齢者の体臭には若年成人のそれよりも安心感を与える効果があることが判明したからだ。この成熟さの匂いを前向きに受け入れ、決して恥ずかしがることなく、気兼ねなく発散してもよいのだと思わせてくれるようなそんな研究結果ではないか。その匂いはありし日の、優しいおばあちゃんの思い出を記憶の底から呼び覚ます。そしてその胸のなかにはミュステラの香りに包まれた赤ん坊が抱かれている。そのような光景が、今目の前に思い浮かぶ。

★ジョンソン&ジョンソンは2020年、発がん性の疑いがあるとしてこのタルクを使用したベビーパウダーの販売をアメリカとカナダの両国で停止している。なお同社はコンスターチを原料とした別バージョンの販売は継続しており、その香り的特徴も販売停止された従来のものが引き継がれている。他の赤ちゃん用商品に関しても同様で、このベビーパウダーの遺伝子は受け継がれ続けている。

それにしても日本という国では、悪臭を放つものは社会的な悪であるとされる風潮がよほど強いと見える。日本語で「高齢者特有の匂い」を意味する言葉として「カレイシュウ」という固有の語を持っていることからもそのことがうかがえよう。

「香水は子どもには濃すぎる?」

2016年2月12日、仏日刊紙の『ル・フィガロ』が「赤ちゃん肌に化粧品は好ましくない」という見出し記事で懸念を表明した。NGO「ウィメン・イン・コモン・フュチャー(WECF)」による報告書によれば、赤ちゃん用の製品の実に88%に、規制では許可されているもののさまざまなリスクが想定される成分が含まれているということだ。代表的なのは各種香料の存在だ。文書中の言葉を借りるとすれば、それらは「不要なもの」でありながら「どんな製品にも含まれている」とのことである。

2012年に「スロー・コスメ協会」を立ち上げたベルギーの「アロマテラピスト・美容家」ジュリアン・ケベックを始め一部の専門家たちは、例えば洗顔には石灰水にオリーブオイルを合わせた化粧水を使うことを薦めるとともに、保湿用には植物性オイルやシアーバター、アロエベラ、そしてヤギ乳やロバ乳などといったものが素材として望ましいとしている。

アレルギー専門医で『アレルギー千夜一夜』(オポルタン出版、2017年刊)の著者として知られるカトリーヌ・クーケは乳児へのケアについて「特に乾燥肌や湿疹を抱える赤ちゃんには、香料も保存料も含まない製品を使ってあげる必要があります」と述べる。生後6ヶ月までの赤ちゃんの肌はその吸水性の高さゆえ敏感で、透過性も高いため、大人の肌よりも刺激を受けやすいからだ。乳液やボディソープ、シャンプー、保湿クリームやお尻拭きまで……カトリーヌ・クーケはかくも多くの赤ちゃん用コスメ用品が今なお増え続けていることに警鐘を鳴らしている。乳幼児の体表面積を体重で割った比率は大人の3倍であるため、それだけ製品の使用過剰によって中毒を引き起こすリスクも高い。「複数の種類を重ねづけして使用すると、子どもの肌が耐えられる濃度を超えてしまうこともあるので注意が必要です」とカトリーヌ・クーケ医師は補足する。「ハンドソープや洗濯用洗剤といったものもそこへ加わってくることもお忘れなく」。

一方で製品の成分構成に関しては細心の注意が払われている。赤ちゃん用のコロンはアルコールを含まず、希釈には水が使用されている。子ども用香水の濃度(2%から3%)は大人用香水のそれ(10%から25%)と比べ抑えられ、アレルギーを引き起こす原料も使わずに配合されている。さらに使う場合も衣服にのみ噴霧し、直接肌につけないよう推奨されている。製品の開発を担う香料会社でもアレルゲンの使用を避ける努力がされており、パッケージに記載が義務づけられている26品目のアレルゲンリスト(うちひとつの使用が禁止されたため2021年より25種類となる予定だ)よりもさらに厳しい基準が設定されている。それでもなお、カトリーヌ・クーケは製品ラベルを詳しくチェックし、万が一(リナノール、シトロネロール、ゲラニオールなどの)主要アレルゲンが含まれていないかを再度確認するよう強く薦めている。

また同医師の注意喚起は次のように続く。「アベンヌ、ラ・ロッシュポゼ、ビオデルマといった信頼に足るブランドのものでも、子ども用製品には香料を使用しているものとしていないものとが混在しています。しかも同一シリーズのものでも、例えば液体石けんやクレンジングオイルには香料不使用でも、ボディローションには使われていることなどもあるのです」。

アレルゲンを多く含んでいる分、エッセンシャルオイルにも注意が必要だ。そもそも配合的に、エッセンシャルオイルは子どもの敏感な肌には向いていない。「矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、本当に赤ちゃんたちのためを思うのだったら『自然なもの』よりも実は化学製品を使ってあげたほうがいいのです」と、そうマン調香師のロルフ・ガスパリアンは語る。「消費者たちは必ずしもこの問題についてじゅうぶんな知識を持っているわけではありません」、そうシムライズのビューティケア・エバリュエイター、アリーヌ・スプロテンが補足する。「自然なものだったら何でも肌に良いとそう無条件に考えがちですが、実は自然由来の成分のほうが合成製品より多くのアレルゲンを含んでいるのです。なので化学的な合成製品のほうがお肌に適しているということも往々にしてあります。それに例えば『グリーン・ケミストリー』原則に則って作られたの製品などは、より環境に配慮したものとなっています」。

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