連載【私の鼻】モデル・文筆家 小谷実由さん 〜#09 香りは自分をつくるもの〜
ファッションモデルや文筆家など、ジャンルを問わず幅広く活動する小谷実由さん。純喫茶や愛猫、美容をはじめ自身の「好き」を、SNSやエッセイで発信。その姿は、多くの人の共感や憧れを集めています。今回のインタビューは2部構成。前半は、小谷さんの「好き」のルーツや審美眼、香りとの関係性について深掘り。そして後半は、今春リニューアルした「NOSE SHOP 渋谷」と、併設してオープンした「KO-GU 渋谷」で、小谷さんへおすすめしたい香水をご紹介しました。
「好き」のかたちは人それぞれ。出会いも理由も違っていい
ー小谷さんは、ファッションモデルをはじめ、エッセイの執筆やポッドキャスト番組のナビゲーターなど、多岐にわたってご活躍されています。改めて、現在の活動について教えていただけますか?
私自身、肩書きにこだわりはないんです。ジャンルは問わず、自分がやりたいこと、力を発揮できそうと思ったことをやっています。その活動を見てくれた誰かが何かを感じ、行動を起こすきっかけになったらいいなと思って活動しています。
ーInstagramやエッセイで、ファッションや愛猫、純喫茶など、ご自身の「好き」を多く発信されています。小谷さんが好きだと感じるものに共通点はあるのでしょうか?
すべての根底には、子どもの頃に好きだったものがある気がします。そこからどんどん派生して、「好き」が連鎖していくような。私の場合、好きなものがすべて1つの延長線上にあるんです。
ー現在の嗜好に通ずることになった幼少期の体験とはどのようなものだったのでしょうか?
両親がファッションに凝っていたので、子どもの頃からいろんな服を着せてもらうことが多かったんです。その影響で、幼い頃から洋服にはすごく興味を持っていました。服に対する「好き」という気持ちが発端となり、モデルという仕事への興味につながっていきました。
ー小谷さんのInstagramを拝見すると、訪れる場所やその日の予定とリンクさせて、洋服もコーディネートされているように感じます。現在、日々のファッションを選ぶうえで、大事にしていることはありますか?
基本的には自分が着たいものを着ています。ただ、訪れる場所やその日に会う人のことも、無意識に考えていると思いますね。「この素敵な場所に溶け込みたい」「今日はやさしい雰囲気に見られたい」という気持ちもあります。その場に合った服を選ぶと、外の世界にいても安心感を得られる気がするんですよね。緊張する場面でも、「この服なら大丈夫!」と少し自信がつきます。
ー小谷さんは蒐集家の一面を持つことでも知られています。現在は、どんなものをコレクションしているのか教えていただけますか。
髪をとかすコームを集めていて、今、230個になりました(笑)。きっかけは、シンガポールに旅行したときに買った、蛍光オレンジのシンプルなコーム。日本ではあまり見かけない色で、とてもかわいいと思ったんです。日常的に持ち歩いて使っているうちに、持っているだけでもとても気分が上がることに気づきました。それで、「もっといろんなコームを知ってみたい」と蒐集するように。気づくと、たくさんのコームが集まっていたという感じです。コームという存在そのものが好きなので、1つずつ家の床に並べて、じっくり眺めることが何よりの至福。集める行為自体が大好きで、どんどん数が増えていくことにも喜びを感じます。
ーそういった好きなものへの思いを「偏愛」という言葉で、表現されているかと思います。小谷さんが思う「偏愛」とは、どんな意味を持つのでしょうか。
私は、「人それぞれの好き」のかたちが偏愛だと思っています。何かを好きな理由って、1人として同じではないですよね。好きなものに到達するまでのストーリーもさまざまなはず。偏愛のかたちは人それぞれにあっていいし、それこそが素敵だなと思っています。
ーNOSE SHOPでも、唯一無二の香りやビジュアル、ストーリーを持つニッチフレグランスを扱っていて、好きになる入口も無限にあると日々感じています。
「好き」には、いろんな理由があっていいと思います。「何となく好き」というのも1つの理由ですよね。すぐ見つかる人もいれば、時間がかかる人もいる。誰でもいつかは「これ」という「好き」に出会えるんじゃないかなと思います。
話すことと書くことは似て非なるもの。だからこそ伝え方を大切にする
ー小谷さんはSNSや日記、写真など、日常の出来事や感情を「記録」することも大事にされていると感じます。どんな思いで続けているのでしょうか。また、記録するツールはどのように使い分けていますか?
毎日大小さまざまな出来事が起き、そのたびにいろいろなことを考えます。そのすべてをなるべく忘れたくない、未来の自分にちゃんと残したい。その思いから、記録を続けています。たとえば、Instagramは好きなコスメやファッション、風景などの写真を記録しています。また、記録をジャンルごとに見返すために、自分用にハッシュタグを作ったところ、たくさんの方が興味を持ってくださり、嬉しい驚きでした。 また、日常で思いついたことや見聞きしたことで印象に残ったものは、ノートにメモしています。移動中はついスマホに記録しがちですが、なるべく手書きを心がけています。文字には、感情も一緒に残るような気がするので手書きが好きなんです。
ー小谷さんは、話す・書く・問うと、さまざまなかたちで言葉を発信しているかと思います。言葉を扱う上で、大切にしていることはありますか?
常にちゃんと考えて言葉を選び抜くことです。話すことと書くという行為は同じように見えて、言葉の意味や伝わり方が違うように思うんです。すべてに共通して大事にしているのは、受け取る人がどんな気持ちになるか想像して、発信すること。あと、自分の気持ちにより近い言葉を使うことも大事にしています。言葉って難しいなと、いつも頭を抱えてばかり。一方、表現を少し変えるだけで、印象ががらりと変わることもあるので、言葉って面白いなとも思っています。たまにパッと思い浮かんだ言葉が、自信を持てるものだったりすると、自分は今すごくいい状態なんだなって思いますね。
香りをまとうと、なりたい自分が完成する
ーここからは、香りとの関係性についてお伺いさせていただきます。小谷さんが好きな生活の香りや匂いはありますか?
質問されて、パッと浮かんだのは家の匂いです。それぞれの家ごとに匂いがあると思うんですけど、自宅の匂いって、普段はあまり意識していませんよね。でも、旅行や出張で家を空けて久しぶりに帰ってきたとき、自宅の匂いに懐かしさを感じて、すごく落ち着きます。家の匂いって、日常的に使っている香水やルームフレグランスの香りに生活の匂いが重なっている。住む人の生活が宿った、そこにしかないものだと思います。
ーここ数年、意識的に香水をつけていらっしゃるそうですが、そのきっかけを教えてください。
2020年頃、コロナ禍で家にいる時間が長くなったことがきっかけです。家にいても、だらけすぎないように、おしゃれやメイクをしていたのですが、家からオンライン取材を受けたり、トークイベントにリモート出演したりする機会がどんどん増えて。家にいながらにして、気分を仕事モードに切り替えるために、香水をつけ始めたんです。今でもリモートの打ち合わせや取材を受けるときには、香水をつけています。
ー生活のあり方が戻った現在は、どのように香水を選んでいますか?
出かける直前、その日の予定や気分によって香水を選んでいます。香りをまとうことで、なりたい自分がちゃんと完成する気がするんです。服を着て、メイクをして、最後に香水を吹きつけると、その日のファッションが完結します。お気に入りのコスメや香水は、自分でまとめて見返せるように「#おみゆ洗面所」というハッシュダグをつけて、Instagramにアップしています。
ー小谷さんが好きな香水のジャンル、香りのアイテムをぜひ教えてください。
私はローズ系の香りが特に好きで、家にいろんな種類のローズの香水があります。店頭で見かけるととりあえず試してしまいますね。最近はスパイシーな香りのものや、パチョリ、サンダルウッドもすごく好きです。香りのアイテムの中では、お香がお気に入り。ただ、猫と一緒に暮らしてるのでリビングでは使わず、トイレや洗面所でお香を焚いています。トイレ掃除する前にお香を焚くと、いい気分で掃除ができるんです。
小谷実由さんにおすすめの新しい香り
Selected by NOSE SHOP
ーここからは、今春リニューアルした「NOSE SHOP 渋谷」、新たに併設された「KO-GU 渋谷」にて、NOSE SHOPが小谷さんにおすすめしたい香水をご紹介します。この春、店舗拡大リニューアルした「NOSE SHOP 渋谷」は、新たに100種以上を追加した都内最大規模の約450種となりました。渋谷の街に合わせたポップかつエッジの効いたニッチフレグランスを取り揃えています。
そんなにたくさんあるとは驚きです。ワクワクしてきました!
ーでは早速、店内をクルーズしながら、小谷さんにご紹介したい香水をピックアップさせていただきます。まずは、「Maison Matine(メゾン マティン)」の「トゥ トゥ カルム|一息つかない?」です。
このボトルデザイン、とてもかわいいですね。
2019年に創設されたパリのフレグランスメゾン。カルダモンやムスクが凛とした香りを演出。イラストは猫がモチーフ。Maison Matine トゥ トゥ カルム|一息つかない?(オードパルファム)50ml ¥14,850
ーこの香りは、飽くなき探究心と、一息の休息がコンセプトになっています。常にご自身の審美眼で「好き」を探求し続ける姿や、ご自宅で豊かに休息の時間を過ごされている小谷さんの姿が、この香水と重なりました。ぜひ、嗅いでみてください。
とってもいい香りです。甘すぎなくて爽やかで…。あっ、柑橘っぽい香りがすると思いましたが、ネロリが入っているんですね。「人間の欲望は無限大。この世の果てを希求する飽くなき探究心」というキャプションから、ますます興味が湧いてきます。
ー次にご紹介するのは「Pierre Guillaume(ピエール ギョーム)」の「04 ムスク マオリ」です。小谷さんが好きな純喫茶になぞらえて選びました。実はこの香り、調香師ピエール・ギョームが、幼い頃に飲んでいたホットチョコレートをイメージして作られています。
もっとこっくりとした甘い香りかと思いきや、カカオっぽい要素もありますね。チョコレートというより、カカオそのもののビターさと、同時にヨーグルトのような爽やかさも感じます。とにかくおいしそうな香り(笑)。
ー続いては、小谷さんがお好きなローズの香りを2点セレクトしました。まずは、「Essential Parfums(エッセンシャル パルファン)」の「ローズ マグネティック」です。グレープフルーツやペパーミントとともに、透明感のある凛としたローズの香りです。
すばらしいですね! 実際に嗅いでみると華々しくて、これぞローズといった風格も感じます。みずみずしさがあって、朝の目覚めを想起しますね。
(右)創業者のピエールは化学者の父親から教えを受け、その後の香水制作の基礎を築いた。琥珀色の輝きを放つホットチョコレートをイメージ。Pierre Guillaume 04 ムスク マオリ(オードパルファム) 50ml ¥22,000 (左)複雑化・高級化が進みすぎた高級フレグランスの世界に、一石を投じるフランスのブランド。ほのかに苦いグレープフルーツとフレッシュなペパーミントが共演。Essential Parfums ローズ マグネティック(オードパルファム) 100ml ¥15,400
ー2つ目のローズの香水として、「Dusita(ドゥシタ)」の「ロザリン」をご紹介します。「ロザリン」はタイ語で「バラの女王」を意味します。先ほどの「Essential Parfums」の「ローズ マグネティック」比べるとフルーティーな香り立ちが印象的です。
私が持っているローズの香水のどれにも似ていない香りで新鮮です。果実のようなジューシーさがいいですね。
ーここで、NOSE SHOPの名物企画とも言える「香水ガチャ®︎」にトライしてみませんか? 「NOSE SHOP 渋谷」では、「香水ガチャ®︎」を3台常設しています。1回900円で、ミニ香水(1ml〜2ml)がランダムに当たる仕組みになっています。
とても楽しそう!ドキドキするなぁ(香水ガチャ®︎を回す)。わぁ、「ベルベット トンカ」という香水が当たりました!
ーそちらは、パリ発のブランド「Bdk Parfums(ビーディーケーパルファム)」の「ベルベット トンカ」です。杏仁豆腐を思わせるトンカマメの香りがベースになっています。
本当に杏仁豆腐のような香りがします。個人的に好きな香りなので、これは当たりですね。嬉しい!
ー次は、併設してオープンした「KO-GU 渋谷」に移りましょう。「KO-GU(コーグ)」は日本生まれのデイリーフレグランスで、毎日の暮らしを鮮やかに彩る香りをコンセプトとしています。オードパルファムやハンドクリーム、リップバームといったKO-GUの全アイテムの他、天然香料を主体としたNOSE SHOPの香水も取り扱っています。
雰囲気がガラリと変わり、落ち着いた気持ちになります。たくさんの香水に囲まれて幸せです。
ーまずは、NOSE SHOPの取り扱いブランド「Abel(アベル)」の中から、「シアンノリ」をご紹介します。「Abel」の香水には、すべて色の名前がついているのですが、小谷さんは「青色」に思い入れがあると伺い、シアンの名を冠した香水を選びました。嗅いでみて、いかがですか?
おっ、何だろう、この香り…。
ー実は「シアンノリ」の「ノリ」は、海苔のことなんです。
えっ、本当に海苔なんですか!? 香り自体も確かに塩気を感じます。面白いですね!
2013年、ワイン醸造家がオランダ アムステルダムで設立。発酵を重ね変化するワインのような「生きている香水」作りを目指す。植物由来のムスクやアンバーグリスを使用した、海への感謝と慈愛に満ちたロマンチストたちの挑戦。Abel シアンノリ 50ml ¥23,100
ーそして、こちらには「KO-GU」のオードパルファム全33種類がずらりと並んでいます。
「パチョリ」や「スペアミント」など、どれもいい香りで迷います。香水って複雑な香りを楽しむイメージでしたが、「KO-GU」のようにシンプルな香水なら気軽に楽しめそうです。ボトルデザインも飾り気がなくて、持ち運びに便利そう。
ー今回、小谷さんには「コーヒー」をぜひお試しいただきたいです。
「あっ、本当にコーヒーだ! 焙煎機の喫茶店の香りが思い浮かびます。香ばしくて、なんだか喫茶店に行きたくなってきました(笑)。
ーもう1つ、「シナモン」はいかがでしょう?
しっかりとシナモンの香りがします。お花のような華やかさもあってほっこり深呼吸したくなりますね。
ー実は、香水を組み合わせて楽しめるのが「KO-GU」の特徴の1つです。難しく考えず、もっと香水を気軽に楽しんでいただきたいという「KO-GU」からのご提案です。
ということは、「コーヒー」の上から「シナモン」を振りかけると…シナモンコーヒーに! 私の大好きな飲み物です。香りがとても立体的で、コーヒーに沈み込んでいくような深みを感じます。
製造工程をシンプルにすることで、天然香料を主体とした世界最高品質の香水をフェアプライスで提供。コーヒー、アーモンドを使用したほっとする香り。KO-GU コーヒー(オードパルファム)40ml ¥4,280。レモンやシナモン、トンカマメなどが清涼感と独特な甘辛さを表現。KO-GU シナモン(オードパルファム)40ml ¥4,180
ー今回、さまざまな香水を嗅いでみて、いかがでしたか?
1つ1つに物語があって、本を読んでるような豊かな気持ちになりました。物語を辿りながら、いろんな登場人物や出来事に遭遇して、自分の記憶やイメージと結びつき、世界が広がっていくような。香りを嗅いだだけなのに、こんなに楽しめるとは思いませんでした。
ーありがとうございます!最後に、今回嗅いだ香水の中から小谷さんのベストワンをぜひ教えていただけますか。
うーん、これは迷いますね。「Pierre Guillaume」の「04 ムスク マオリ」もとても印象的でしたが、やっぱりローズ好きとしては、「Essential Parfums」の「ローズ マグネティック」です。気分や気候によって、使い分けたい香水ばかりでした。
PROFILE:小谷実由(おたに・みゆ)
1991年東京生まれ。14 歳からモデルとして活動を始める。
自分の好きなものを発信することが誰かの日々の小さなきっかけになることを願いながら、エッセイの執筆、ブランドとのコラボレーションなどにも取り組む。猫と純喫茶が好き。
通称・おみゆ。
著書に「隙間時間(ループ舎)」
J-WAVE original Podcast番組「おみゆの好き蒐集倶楽部」のナビゲーター。
J-WAVE「FAV COLLECT CLUB-OMIYUNO SUKI SHU SHU CLUB」ナビゲーター。
Instagram:@omiyuno
photo|Takuya Nagata
interview|NOSE SHOP
text|Miho Kawabata
NOSE SHOPのYoutubeアカウントでは、インタビューの様子を動画でも公開中!リンクはこちら