ヘディオンって知ってる?お茶とジャスミンに欠かせない香り

みなさんの好きな香料はなんですか?
ジャスミン?お茶の香り?その全部?
その二つの香りを作るのに欠かせない香気成分があるんです。

それがヘディオン。
聞き慣れない言葉にびっくりすると思うのですが、実はノーズショップで人気の香りには必ずと言っていいほど入っている香りなんです。

今回はかなり昔に行ったガンマウンデカラクトンのように香気成分紹介シリーズ。
今回はヘディオンをフィーチャーした軽やかでみんなに愛される香りを紹介します!
前回はこちら。


まずはヘディオンとはどのような香りなのでしょうか。
ヘディオン(別名:ジヒドロジャスモン酸メチル)は軽やかでシトラスとジャスミンの間のような香りの合成香料。
1958年に3大香料会社の1つであるスイスのフィルメニッヒ社によって開発された素材です。

天然ではジャスミンの一種であるジャスミン・グランディフローラム種やブラックティーに香りが発見されていることが報告されています。 主な用途は香料としてはもちろん、化粧水の皮膚コンディショニング剤としても使われることがあるようです。

香水として初めて使われたのはDiorによる1966年リリースのEau Savageという香り。
ジャン=クロード・エレナの師匠、エドモン・ルドニツカによる作品です。
ここでのヘディオンの役割はメインに香っているもので、柑橘とラベンダー、ベチバーの橋渡しとして活躍しました。

そんな弟子のジャン・クロード=エレナはヘディオンを多用することで知られる調香師。
まずは彼の作品から読み解いてみます。

LABORATORIO OLFATTIVO(ラボラトリオ オルファティーボ)|バリフローラ

NOTE:
タンジェリン、オレンジブロッサムアブソリュート、フランジパニ、リリー、ゼラニウム、ロータス、ジャスミン、ムスク

調香師の中でも伝説的な存在であるジャン=クロード・エレナ、これまではエルメスの初代専属調香師をつとめ、現在はフリーランスとしてクヴォン・デ・ミニムのプロデューサーなどを手掛けています。 この香りにヘディオンを使っていることは僕の鼻と彼の作品のくせによる予想でしかないのですが、 彼の作品にはまさにヘディオンのような香料を使い、淡い香りのレイヤーを作ることがたびたびあるのですが、この香りも同じような感覚があります。

オレンジのお花やタンジェリンをメインに据え、リリーやムスク、ジャスミンを引き立て役のような構成です。
ここでのジャスミンにヘディオンを使用しているような軽やかで淡い雰囲気の南国のお花の香りです。

ちなみにジャン=クロード・エレナについてはこちらもどうぞ


そして、ジャンクロードエレナは今トレンドのお茶の香りというジャンルをブルガリで発明したことでも有名です。

NISHANE(ニシャネ)|ウーロンチャ

NOTE:
トップ|ベルガモット、オレンジ、アオモジ、マンダリン
ボディ|ウーロン茶、ナツメグ
ベース|ムスク、フィグ

ノーズショップでダントツの人気を誇るニシャネのウーロンチャ。こちらの香りにもヘディオンが採用されています。
ここでの使われ方はメインのウーロン茶の部分です。

ブルガリの香水でお茶の香りを発明した、ジャンクロードエレナはその香りの作り方を彼の著書、『香水』にてこう明かしています。

合成香料β-イオノンの特徴的な匂いは1世紀ものあいだ、スミレの香りを意味していた。ブルガリの「オー・パフュメ・オーテ・ヴェール」において、初めて違う方法で使われた。イオノンは合成香料ヘディオンに結び付けられると、お茶の香りを喚起するのである。 Jean-Claude Ellena, 2007, Le parfum(芳野 まい訳,2010,『香水-香りの秘密と調香師の技』 白水社)P77より
このように、お茶の香りはβ-イオノン+ヘディオンで作成させることができるそう。先ほど触れたようにヘディオンが紅茶の中から発見されたことを考えたらなんか納得ですよね。

このウーロンチャの香りも爽やかなベルガモットから始まり、軽やかなヘディオン爆盛りのお茶、そして甘く柔らかなムスクとフィグへ変わっていきます。
トップからミドルにかけてのシトラス〜ティーノートの架け橋になってくれているようにも感じられます。

LABORATORIO OLFATTIVO(ラボラトリオ オルファティーボ)|ニード ユー

NOTE:
トップ|レモン(イタリア産)、ピンクペッパー
ボディ|白い花々、ジャスミン、波のしぶき
ベース|アンブロキサン、サンダルウッド、ホワイト・ムスク

ノーズショップでウーロンチャと並んで人気のある香りであるLABORATORIO OLFATTIVOのニードユー。
2019年にはノーズショップの人気上位3位に入った定番アイテムです。

レモンとジャスミン、ムスクのさっぱりした香りで、主張が激しく無いので、香水を初めて使われる方にもオススメな香りです。
この構成だけを見るとヘディオンがいないように感じるのですが、ここのジャスミンの中身がヘディオンのハイグレード版、Hedion High Cisという香料で、公式インスタグラムでもジャスミンがヘディオンであると明かしています。

出したてはレモンのすっきり感が出るのですが、徐々にムスクとジャスミンと言われなければわからないような柔らかなお花の香りを感じられます。生のジャスミンを使ってしまうと「花の王」とも呼ばれるほどしっかりした香りなのでこのソフト感は実現しなかったと思います。
ヘディオンがなければ成し遂げられなかった香りです。

今回は人気のある香りには必ず入っていると言っても過言ではないヘディオンを特集してみました。 クレジットとしてはジャスミンとなってしまい影に隠れてしまいがちですが、縁の下の力持ちのような存在だということを知っていただけたら嬉しいです。
もしかしたらお手持ちのジャスミンの香水の中身もヘディオンだったりして…?

参考資料
Jean-Claude Ellena, 2007, Le parfum(芳野 まい訳,2010,『香水-香りの秘密と調香師の技』 白水社)
Chemical Book,ジヒドロジャスモン酸メチル (cis-, trans-混合物) (Retrieved December 10 2020, https://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB9377525.htm)
OHLOFF, Irdische Düfte — Himmlische Lust: Eine Kulturgeschichte der Duftstoffe, Google Books (Retrieved December 10 2020,https://books.google.de/books?id=gdKcBgAAQBAJ&pg=PA224#v=onepage&q&f=false)
Dior, Eau Savage (Retrieved December 10 2020,https://www.dior.com/ja_jp/products/beauty-Y0097001)