Heeley(ヒーリー)新作フレグランス発売記念インタビュー
「夢と現実を行き来しながら、香水という1つの世界を創り上げる」

調香からデザインまで、オーナーであるジェームズ・ヒーリー氏が一気通貫で作るフランスのフレグランスブランド「Heeley(ヒーリー)」。このたび、南仏の雰囲気とオリエント文化の融合の地、マルセイユを表現した新作のオードパルファム「コローニュ オフィシナル」が10月16日発売になりました。先日、発売を記念し来日したヒーリー氏にインタビューを実施。新作に込めた思いや香水作りに対する姿勢など、貴重な言葉の数々をお届けします。



ー新しいオードパルファム「コローニュ オフィシナル」はどのようなイメージの香りを目指したのでしょうか?

「コローニュ オフィシナル」は、マルセイユのコンセプトストア「JOGGING」のオーナー兼創設者の写真家オリヴィエ・アムゼルレムから「自店で使うための香水を作ってくれないか」と依頼され作ったのがきっかけです。マルセイユ地方に生息しているラベンダーから、香りのインスピレーションを受けました。

「コローニュ オフィシナル」はラベンダーやローズマリー、タイム、セージといった典型的かつ伝統的なフランスの材料を用い、とても由緒正しく伝統的な香り。また、マルセイユはオリエント文化の多大な影響を受けていることから、アンバーグリスとオークモスによってオリエンタリズムも感じられるオードパルファムに仕上げました。



ー新たな試みとして東洋と西洋の融合にも挑戦されたということですね。今回の新作に限らず香水を作るうえで大切にしていることはなんでしょうか。

私が香りを創造するとき、常に他とは違う視点から物事を見て、唯一無二のアイデアを生み出そうと心がけています。それにより、香水に独自性が生まれ、各々違った輝きを放つのです。音楽や絵画を創造する芸術家と同様に、私たち調香師も常にさまざまなことに興味を持ち続けなければなりません。同じことを繰り返すことは意味がない。たとえその思考が果てしないとしても、他とは違う視点で考え続けることが必要です。

私はものづくりが好きなので、香水作りそのものを楽しいと感じています。香りは自分にとって美の世界の一部。香りの持つ色、テクスチャー、フィーリング、エモーション、デザインが美を作り出します。そのため身の回りの環境も常に機能的で美しく、おもしろいもので溢れるように整えています。

そこで生み出された香水は、それらと同様にエレガントで楽しく、人生をより豊かに変える力を持っています。

ー「Heeley」ならではの唯一無二性において、ご自身ではどんな特徴があると思っていますか。

香水は繊細さや楽しさを感じさせるだけでなく、違う考えに導いてくれたり、インスピレーションを与えたりしてくれます。音楽や食事と同様に、香りも生活の一部として非常に価値があるものだと考えています。

私にとっていい香水とは、適切な調和が取れているもの。そのため、複雑になり過ぎないよう、シンプルな香水作りを意識しています。また、エレガントを表現することも大切にしています。

たとえば、エレガントに、そして唯一無二の「海」の香りを作るにあたって、香料にミントを用いるのは、私ならではと言えるかもしれません。一般的に香水にミントがあまり用いられないのは、ミントを使ってエレガントな香りを作り出すことが難しいから。しかし、私はその困難に立ち向かい、香水を生み出すことをとてもおもしろいと感じました。

ーヒーリーさんは、弁護士、デザイナーなど、これまで多岐にわたって活躍されています。その中で、香りの世界へ挑戦を決めたきっかけについて教えてください。

私はもともとロンドン大学キングスカレッジで法律を勉強していましたが、アカデミックな世界を窮屈に感じ、パリへ渡りました。人生はもっとおもしろく、彩りに溢れてなければならないと思ったのです。夢を追い求めてグラフィックデザインを勉強し、グラフィックデザインやパッケージデザイン、インテリアの仕事をしていました。

また、パリの有名な花屋と共同し、花瓶をデザインしていました。薄くて長い「運河」という名の花瓶は、著名なフラワーアーティストのクリスチャン・トルチュによって、フランスで有名なコレクションで使われ、パリを席巻しました。

そんなときに「花よりも香りに興味がある」と気づいたのです。香りを作る過程を知るととてもクリエイティブだと感じ、勉強して調香師になりました。香水を作る過程には今まで自分が携わったことのないプロセスばかりだということを痛感しました。

香水作りは、実はとても簡単かつシンプルです。エネルギーとやる気、そして興味を持っていればできます。人は皆、それぞれ異なるエネルギーを持っていますが、私自身は「追求する忍耐力」を持っています。これは私が生きるために必要なエネルギーで、もの作りを追求し続けなければ私という存在は無用だと思っています。

香水作りは、夢を見ることと、現実を見ることの両面が存在します。中でも香りを抽出するという行為はとても現実的で、農業的とも言えます。



香り作りのプロセスでおもしろいのは、夢と現実を行き来する体験ができること。まるでジャグリングのようです。これはさまざまな芸術的な行為に共通する鍛錬の1つ。もし芸術家が夢ばかり見て現実を見なければ、方向性を見失ってしまうでしょう。香水作りは現実で見たものを夢の中で具体化させ、それをまた現実に戻すという行為です。

私たちは皆、自分だけの小さな世界を作り上げたいと願っています。それは空間であったり、夢であったり……。私にとって、その世界の一つが香水なのです。

ーヒーリーさんはその世界を築くために、どんなことに興味を持っていますか?

人はたくさんの経験をすればするほど、もっと多くのことをしたいと思うようになります。家を建てているときは、建築学や素材に興味を持ちましたし、食や音楽も大好きです。視野を狭めず多くのことに興味を持っています。

ー実際どのように香りを生み出しているのですか?

例えばライターであれば、書くことを通して書きたいことが生まれてくる。アイディアはアイディアから生まれるのであって、ただじっと待っていて湧き出てくることはありません。話さなければ言葉を習得できないのと一緒です。ものの名前を覚えて発することで、言葉を話せるようになり、人とコミュニケーションが取れるようになりますよね。香水作りは言語とよく似ています。香りを作らなければ香りを生み出すことはできません。

私はダイビングやサーフィンをするなど海が好きなので、今回も「コローニュ オフィシナル」に海のエッセンスを取り入れたいと思いました。もし、私が画家なら海の絵を描きますし、ライターだったら海の様子を書き記すでしょう。私が香水を作ることはアイディアを具現化するための方法であり、人と気持ちを共有する手段。今回、ローズやジャスミンなどの伝統的な香りではなく、ミントを使って海の潮の香りや表現しました。とても実験的な香水ですが、「コローニュ オフィシナル」には人々の中に眠る海の記憶を刺激する力があります。



これまで数々の実験的な香水を作ってきましたが、歳を重ねた今、ユーザーの声により耳を傾けて、香水を作るようになりました。それが私の仕事であり、果たすべき役割だと思うから。以前は、香水に対するニーズがあっても、それを心に留めるかどうかは自分次第だと思っていました。しかし、今は使う人のことを考えて香水を作っています。自分が作った香水を喜んで使ってくれる人がいることは何にも勝る報酬であり、今の自分のモチベーションになっているのです。

一方、たくさんの意見を聞くことが障害にもなることもあります。いろいろなことに興味を持ち、詳細が気になり追求し過ぎてしまうなど、マイナスに働くこともあるのです。これは、ものづくりをする上での永遠の課題です。どこまで追及していいのかわからない。完璧を追及したいと考えるのと同時に、完璧なものなど存在しないとも思っています。だからこそ、自分自身に歯止めをかけなければいけません。クリエイターとして、それが本当に難しいと感じます。



ー最後に、日本のファンに向けてメッセージをお願いします。

すべての人、特に学生に向けて届けたいことは、香りに対してオープンになって楽しんでほしいということです。想像力を広げることで、周囲のさまざまな物事に気づくことができます。それが興味へと変化したり、喜びをもたらしたりし、人生はより豊かになります。言語を習得したときのように、人生に多様性がもたらされるでしょう。

世の中には「バラが嫌いだ」という人がいますが、そんなことはきっとないと思います。今は確かに嫌いでも、もっとよく知れば好きになるきっかけがあるはずです。先入観や固定観念にとらわれず、オープンになることを楽しんでほしい。そうすることで、きっと豊かな世界が開けるでしょう。

 

調香からデザインまでオーナーが手掛ける一気通貫の香り作り
Heeley

ロンドン大学キングスカレッジにて哲学と美学を学び、弁護士の資格を持つ英国人ジェームズ・ヒーリーによって生み出されたフレグランスブランド「Heeley(ヒーリー)」。彼はフランスで調香を学んだ調香師でもあり、デザイナーでもあります。すべての香水はフランスで製造されており、厳しい基準を満たす希少な香料から生み出されるデリケートな香りの変化が特徴のフレグランスは、コンテンポラリーで独創的、コレクションのほとんどはユニセックスです。

香りはもちろん、グラフィック、パッケージに至るまですべてのディテールを自社でデザインし、ヨーロッパでも数少ないオーナー兼クリエーターが手掛けるインディペンデントでラグジュアリーなフレグランスメーカーのひとつとしていまも歴史を刻んでいます。独立性こそが自由な発想を生みだし、ひとつひとつ個性が際立つ香りの創作へとつながっているのです。

  • コローニュ オフィシナル
  • 紺碧の地中海のエッセンス。南仏の雰囲気とオリエント文化の融合の地、マルセイユの具現化。健康、清潔さ、完璧な身だしなみ。70年代のコロンを彷彿とさせる強烈なインパクトに、マルセイユの現代的な鼓動を宿す。
  • トップ|バジル 、ガルバナム
  • ボディ|ラベンダー、ローズマリー、セージ
  • ベース|アンバー、オークモス
  • Heeley(ヒーリー)
  • ラインアップ|オードパルファム 16種 100ml 24,200円/エキストレド パルファム 4種 100ml 31,900円
  • 取扱店舗|NOSE SHOP 渋谷、オンライン