DESIGN & PERFUME

“液体の黄金”と呼ばれるほどの希少性と、世界的な需要の急増。市場で最も高価な天然原料のひとつとして、神秘と情熱を宿すこのラグジュアリーな香材は、今も衰えぬ熱狂を生み続けている。

ウード──貴重なる精髄

文:セシル・クルエ 写真:© Firmenich

聖書にも記され、アラビア語でウードと呼ばれる沈香は、古くからアジアやアラビア半島で薫香や非アルコール性の調合に用いられてきた。近年では中国をはじめとする投資家が希少な塊を買い求め、また中東の香水産業はその濃密な香りを愛し、高額で取引する。ヨーロッパのフレグランス業界もこの15年ほどで、豊かで多面的なこの素材に魅了されてきた。その香りは木質、レザー、蜂蜜のような甘みから、動物的で発酵乳やブルーチーズを思わせるクセのある側面まで幅広い。ヨーロッパでは強すぎると感じられることも、中東では高く評価される。

感染が生む樹脂

物語はジンコウ属のアクイラリアの樹から始まる。原産はアッサム(現バングラデシュの一部を含む)で、いまや東南アジア全域に広がる。
クラッスナ種やマラッカンシス種は、フィラオフォラ・パラシチカ菌に感染すると芳香の樹脂を生成する。
この樹脂を含む木こそが沈香(ジンコウ)=ウードである。

古来アッサムでは価値ある木として代々植え継がれ、森では傷跡を持つ木を倒して採取した。
やがて16世紀には釘を打ち込み、感染を促して幹を樹脂で満たす方法が生まれた。
現在は20〜30年前からプランテーションが主流となったが、感染から樹脂が熟成するには数十年という時間が必要で、市場の速度には合わない。
フィルメニッヒはアッサムのシレット地方で家族経営のジャラリ・アガーウッド社と協働し、90万本の樹から複雑で蜂蜜のようなオイルを得ている。
ベトナムやラオス産はよりレザー的でチーズを思わせるプロファイルを持つ。

山羊のチーズのような香気

伐採後、樹は丸太にされ、樹脂濃度で黒・茶・淡茶・白(健全木)に選別される。
蒸留前に細かく砕き、水に数週間漬け込むことで香気を引き出す。
健全木は脂質的で酸味のある“山羊”の香りを持ち、これに感染木特有の木質・レザーが加わる。
産地、品種、樹齢、樹脂濃度、浸漬期間の違いが香りの複雑さを決定づける。

調香師ファブリス・ペルグランは、ウードの活力と多様性を讃え、「声を持ちながらも自在に形を変える素材」と表現する。
中東市場向けは濃厚で豪奢、ヨーロッパ向けはより控えめに合成物(アンバーや動物的分子、キプリオール等)を用い、熱を帯びたフェノール感やバニラ感を引き出す。
天然ウードは一滴ずつ、大切に使われる。

工程:4つのステップ

1. 伐採:倒した樹を丸太にし、一部は薫香用やコレクター向けに。
2. 感染:自然界では毛虫が穴を開けるが、16世紀以降は釘で感染を促す。
3. 選別:黒から白まで樹脂濃度で格付けし、浸漬期間で香調が変化。
4. 抽出:木片を蒸留し、オイルに懸濁。1kgが3万5千ドルに達することも。

THE FANTASY PERFUMERY

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パブロ・ピカソ

映画『ミステリー・オブ・ピカソ』でのあなたの姿を拝見しました。「画家になりたかった、そしてピカソになった」と言うあなたに、ふさわしい一本を。カーナー・バルセロナの「メガリウム」。芯に据えられたのは堂々たるシナモン。だが、そこに漂うのは菓子の甘さではなく、白胡椒の獣性と唐辛子の熱。やがてシナモンは薔薇色に変わり、解放的な誘惑を纏う。背景にはオリバナムとミルラの樹脂が熱く筋肉質なミノタウロスを思わせる力強さを与える。唯一無二、誇り高く華やかな香りが、天才をさらに高みへと押し上げる。

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MEGALIUM
ブランド Carner Barcelona
調香師 Rodrigo Flores-Roux
発売年 2018年
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スティーブ・ジョブズ

あなたが求めるのは、ハイテク製品のように洗練されたミニマリズム。
ヨウジヤマモトの「モード・ゼロ」。
ジャスミンが水洗いされたように透き通り、柔らかく緑がかった香り。
合成ムスクの繭が包む安心感、抽象的なシダーウッドの直線的な構造。
アンブロキサンが温もりを添え、純粋さと落ち着きをもたらす。
偉大な発想は、こうした静謐から生まれる。

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MODE ZERO
ブランド Yohji Yamamoto
調香師 不明
発売年 2018年

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